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2012年9月15日 さかもと手帳 Vol.20 《ぼや騒ぎ》

2012年09月15日

 先日、高校時代の同級生の友人(女性)から、さかもと手帳に関する貴重なアドバイスをもらいました。同級生のことですから結構辛らつな批評をします。「『さかもと手帳』を読んでるけど、きれい事が多過ぎるよ。思うに任せないのが人生だし、もっと失敗談もあるはず。それを紹介すれば坂本君の人間味が出てもっと面白くなるかもしれないよ」とのことでした。こんな駄文を読んでくれているだけで嬉しいのに、感想まで寄せてくれてありがたいことです。ということで今回は友人の指摘を踏まえ、私の人生最悪の思い出を紹介しましょう。
 私は教員になった当初から野球の指導にうつつを抜かし、結婚後も親の世話・近所づきあい・子どもの教育等々すべて家内任せで、土曜も日曜も試合や練習に明け暮れて家にはいませんでした。そんな、家庭をまったく顧みない生活を続けているとどうなるかというと、家族も近所の人たちも私のことをまったく当てにしなくなります。これは男にとって寂しいことです。
 こんなことがありました。あれは佐波高時代でしたが、ある冬の日曜日、その日は午後からの練習だったので、昼前になってもまだ私はパジャマ姿のままコタツの中で新聞を読んでいました。すると急に台所の方で家内が「きゃあぁー!」と大きな叫び声をあげました。何事だろうと行ってみると、なんと台所の天井が燃えているのです。普通の家庭なら、戸主たる私が近くにいるわけですから「おとうさーん、火事!」と私に助けを求めるところですが、家内は私には目もくれず「きゃぁー、Aさーん!」と隣の家のご主人の名前を呼びながら駆け出して行ったのです。傷つきました。でもあれこれ考えている場合ではない。いくら役立たずの私でも水をかければ火は消えるぐらいのことはわかりますから、まずは水をためなければと思い、最も大きい鍋を持ち出し水道の蛇口をひねりました。水が鍋いっぱいになるまでの時間は1分程度だったのでしょうが、随分長かったような気がしました。その間、早く火を消さなければという焦りの気持ちと、それ以上にAさんが来る前になんとか自分の力だけで消し止めたい、そうすれば、我が家の中だけででも復権ができる・・・・。
 やっと水が鍋いっぱいになりました。「よーし、見てろ」と気合を入れて鍋を持ち上げようとしたら、重くてびくともしません。仕方なく、せっかくためた水を半分に減らしました。やっと準備は整い、この水をかけるのみ、頭上1メートル弱の天井ですから、私の体力を持ってすれば十分に届くと自信を持って投げ上げたところ、両の手で持っていた取っ手を支点にして鍋は見事にクルッとひっくり返り、燃える天井には一滴もかからず、水は私の頭の上にザブンと落ちてきました。真冬に冷たい水を頭からかぶり、ガタガタ震えながら「俺はなんてくだらない人間なんだ。こんな愚かな人間がいるだろうか、家族が自分を当てにしないのは当たり前だ」などと自己嫌悪に陥りながら呆然と立ち尽くしているところに脚立を持ってAさんが駆けつけてこられました。私のほうをチラッと一瞥しただけで何も言われず、(このときの視線には、すべてを見抜かれて私のことを軽蔑されているように感じました)脚立に足を掛け、座布団で叩くようにしてあっという間にぼやを消し止めてくださいました。「念のために水を掛けておこう、奥さんホースは在る?」「はい、ここに」なんだ、ホースがすぐ横にあるではないか、そもそもの間違いは鍋に水をためようとしたからだと後悔をしましたが後の祭りです。家内と子ども二人は憧れの眼差しでAさんを見つめているその側で私はずぶ濡れのパジャマ姿で立ち尽くしていました。
 あれから数十年、野球の指導からは離れ、土・日の休みもあるし、今までの取り返しをつけようと思い、あれこれ家庭の仕事に首を突っ込もうとしますが空回りばかりです。庭の草を引いても十分に取れてないようで、いつも家内がやり直しています。夕方の犬の散歩も先日一匹が逃げ出してしまい、それを捕まえられなかったので失格になりました。台風に備えて庭木が倒れるのを防ぐためロープで庭石に結わえようとしましたが、どうしてもロープはだらりとたわみます。そんなときに限ってAさんが通りかかられ、私を押しのけるようにして、特殊な結び方でロープをピーンと張ってくださいます。確かにAさんは我が家の恩人ですが、私にとってはちょっと苦手なタイプです。
 家庭の中で頼りにされる存在になりたいと今も願い続けていますが、家内や子どもを今更こちらに向かせようとしても無理、最近飼いだした犬(コロン)も完全に私を馬鹿にしています。あとは孫だけですが、先日私も側にいるのに小学5年の孫が「おばあちゃん、9月15日の土曜日が運動会だから見に来てね。」と家内にだけ案内をしていました。
 皆さん、60歳を過ぎたら家庭が最も大切になります。私のような寂しい目にあわないためにも、子どもの運動会などは少なくとも小学校までは観に行って応援をしてあげて下さい。いくら仕事が忙しくても、たまには家族旅行にも連れて行ってあげて下さい。
 

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